OPAMP道

DR.DAC2 DXのオペアンプを交換してチューンアップをしよう。
本機器はオペアンプがソケット式なので誰でも簡単にオペアンプ交換ができる。

1.回路説明

AUDIOTRAK - DR.DAC2 DX



※交換の前に、メーカーのページがあるので必ず確認しよう。
AUDIOTRAK - OPAMP交換方法


DR.DAC2 DXは充実したデジタルインターフェースを備えており、SPDIFコアキシャルとオプティカルで192kHz 24bit、USBで92kHz 24bitまで対応し、デジタルアウトも備えている。PC はもちろん、CDプレーヤ、ゲーム機、自宅録音機器など幅広く接続してデジタル音源を高品質で楽しめるようになっている。

ヘッドフォン出力はその能率に合わせてローとハイのゲインが1と2に設定されており、ソニーMDR CD-9000STのような高能率なものからAKG K-501などの高品質低能率なものまでカバーできる。DACにTI社のPCM1798の+/-の出力信号をそれぞれ合成し高い変換精度とダイナミックレンジを確保するディファレンシャルモードで動作させ、その出力電流を電圧のオーディオ信号に変換させる箇所にはNE5532を2個、それをシングルに合成する箇所にはNE5532を1個採用している。

PCM1798はアドバンストセグメント方式というDCAでこれはいわゆる昔からある力強い音で定評のあるマルチビット方式とさわやかで清涼感のある新しいシグマデルタ方式の良いところをミックスした方式となっている。またライン出力バッファには同じくTI社のOPA2134を、ヘッドフォン部にはOPA2604を採用しておりそれらを+/-12Vの電源で動作させるというこのサイズでは大変贅沢な回路になっている。
交換できるオペアンプは全部で5ヶ所ある。

2.さっそく交換してみよう

前4本、裏2本のビスを外す

このように抜く

挿し替え時は向きを間違えないように


ここに入れておけば安心

まずはオペアンプをはずしてみよう。電源を切ってケースのビスを外して中の基板を引き出す。

はずし方は写真のようにラジオペンチで傷をつけない様にやさしくオペアンプの端をしっかり握ってゆっくり引き出す。ピンセットなどでは力が入らないのでラジオペンチがお勧めだ。脚が曲がらないようにあせらずにゆっくりやろう。もし曲がってしまった場合はラジオペンチでまっすぐに戻してやれば大丈夫。はずしたオペアンプは静電気で壊れないように黒い静電マットに差して保管しよう。オペアンプICはめったに壊れることはないが大事なオペアンプをそのままプラスティックケースなどに入れるのはちょっとかわいそうだ。

今回はヘッドフォンアンプ部にナショナルセミコンダクタ社の最新かつ素晴らしいオーディオ性能を誇るLME49860にしてみた。向きがあるので間違えないように。新しいオペアンプのICは脚が広がり気味なので予めラジオペンチで少しすぼめるようにしておくと楽に挿入できる。

さあ、音の変化がわかっただろうか? LME49860はオーディオ用途では全く欠点が見当たらない、いわゆる優等生だ。ノイズ感や高域などに変化が楽しめると思う。元についていたOPA2604はICの中の信号経路がすべてFETで構成されたユニークなオペアンプだ。性能も素晴らしいが音にも個性があるのでLME49860とは優劣を競うというよりは個性を楽しむといったほうが適切だろう。
LME49860のほかはOPA2134、OPA2227、アナログデバイセスのOP275、JRCのNJM2114や新発売のMUSES02、MUSES8820などもOKだろう。

ディファレンシャル-シングル変換部のNE5532も変えてみよう。この部分はかなりの電気的な精度が求められる箇所だ。24bitという信号はCDの16bitに比べて256倍の精度が要求される。24bitでは1678万分の1まで正確に変換しないといけない。出力を2Vのラインレベルとした場合1bit分の電圧は2Vの1678万分の1だから0.00012mVという超微小信号を扱うことになる。NE5532でも充分だがさらなる性能を追い求めるならばリニアテクノロジー社の高精度超ローノイズのLT1028に変えてみよう。


LT1028は1回路入りなのでNE5532×1個と交換するにはLT1028を2個写真のような2階建て変換基板に載せる必要がある。この変換基板は秋葉原などのPC部品ショップやオンラインストア等で簡単に手に入るので自分で作ってみよう。

さらにIV変換部もおなじLT1028×2個に変えてみたいところだが、ここはスペースが狭くて2階建ての変換基板は入らない。よって写真のようブラウンドッグ社製の変換基板が必要となる。これは小型SOパッケージを裏と表にそれぞれ搭載したタイプでスペースの狭いところには最適だ。

LT1024 2個 2階建変換基板


LME49860

このIV変換部部分も前述と同じかなりの電気的精度が求められる箇所だ。しかも192kHzの場合はCDの44.1kHzに比べて4倍以上のスピードでデータをどんどん変換していかないといけない。さらに8倍オーバーサンプリングをDACの中でやっているのでさらにその8倍の高速変換が必要になる。素早くどんどん変換して行かないと間に合わないがここのオペアンプの出力電圧安定時間が問題になって追いついていかない場合がある。セトリングタイムという項目でデータシート記載されているが、NE5532では何とかぎりぎり処理が出来る。ここは、さらなる性能を追い求めるならばOPA627が究極の選択だろう。

もちろんここにも前述の2回路入りでも挿し替えができるが変換速度が追いつかなかったり精度が出ない場合もある、しかし音質の変化は十分楽しめるだろう。

さあ、どのように音が変わっただろうか?
どのような変化があるかは主観的な判断になるので皆さんの耳にお任せしよう。またいろいろな感想がネット上にたくさん出ているのでそれらを参考にしてもいいだろう。値段が高いオペアンプはそれなりに性能も素晴らしいが、かといって音がいいかとは限らない。オペアンプ自身の音もそれぞれに個性があるし、また周りの部品や回路、電源も音に影響するのでご理解いただきたい。

なお、オペアンプの交換は自己責任でお願いしたい。ICの向きを間違えて電源を入れた場合はオペアンプやセット全体の故障の原因となるので注意してほしい。こちらにメーカーのページがあるので、挿し換える前に必ず確認しよう。
AUDIOTRAK製品ページ - DR.DAC2 DX
※OPAMPの交換は自己責任で行うようにしよう。誤って基盤に傷を付けてしまったりしても、メーカーはサポートの対象外としているからだ。

ブラウンドッグの裏表2個変換基板

狭い場所にも入りる

3.そもそもオペアンプとは何ぞや?

オペアンプ、それは完成したアンプ回路が8ピンの小さなICパッケージに入っている優れものだ。なかにはトランジスタ、FET、抵抗、コンデンサなどの素子が約200個入っている。入力ピンは+と-の2つがあり、出力は1つ、それ以外に+/-の電源ピンがある。グランドピンはない。これらのピンにうまく抵抗やコンデンサを接続するだけでいろいろなアンプやトーンコントロールなどのフィルター、発振器などが作れる。

オペレーショナルアンプリファイアを略してオペアンプ、英語でもOPAMPという。オペレーショナルは手術の意味ではない、演算という意味だ。演算とはいろいろな計算のこと。もともとは1950年代のアナログコンピュータの演算回路モジュールとして真空管で開発されたがその便利さと性能の発展によりオーディオにも使われるようになった。

アナログコンピュータ? なんだそれ? コンピュターは全部デジタルだろう? と言うかもしれない。コンピュターは今でこそデジタルだが昔はアナログだった時代があった。電圧、電流、周波数などを足したりかけたりしていろいろな機械を制御していたのだ。2V+3V=5V、2Vx10=20Vといったように計算していた。電卓が無かった時代は計算尺という物差しのようなもので計算していたがそれと似たような感じだ。これで大砲やミサイルの照準を合わせ制御するなどに役立ったようだ。厳密な数字の計算はノイズや電源変動などで正確にはできないので、やがてデジタルに取って代わられた。しかしこの技術はさまざまなアナログ回路の中でどんどん応用された。

計算とオーディオはどういう関係があるのか? たとえば足し算は2つの音をミックスするミキサー、これはDJや自宅録音でよく使う、引き算は右から左の音を引けば真ん中のボーカルが消えるボーカルキャンセル、掛け算は音に3をかければ3倍の増幅、音と音どうしを掛け合わせればビブラートとなる。さらに微分積分までやると低音強調や高音強調のトーンコントロールやアナログレコードのイコライザアンプになる。つまり音のいろいろな処理は計算でできるのだ。

1970年後期にICとしてRC4558やNE5532などがローノイズ、低歪率でオーディオ専用として発表され、一気に全世界へ広まった。それ以来どんどん性能が改良されている。ほとんどアメリカの電子会社がこれを引っ張っていった。今でもNE5532は現役だ。スタジオの録音機材や楽器のエフェクターなどはオペアンプの独壇場で、オペアンプを通らない音楽を聴くことはもはや不可能に近いだろう。

見かけは、プラスティックの黒い8ピンパッケージだ。ピン配列はどれも共通である。また電源電圧範囲もだいたい+/-15Vを中心に設定されているので、オーディオ用途であれば挿し替えても動作する。

厳密にいえば挿し替えた場合、性能を発揮できなかったり発振したりする問題が起きる場合もあるが、オーディオ回路でアマチュアレベルとして楽しむにはそれほど難しく考える必要はないだろう。電源機器、測定器、通信機器、医療機器、自動車機器などの場合は挿し替えにはプロの判断の元に十分な注意が必要だ。

4.その種類は?

ここでは電気的に難しい分類はやめて、初心者にもわかる簡単な分類をしてみよう。
大きく分けて2種類ある。8ピンパッケージに2回路入っているもの、2回路入り。ひとつしか入っていないもの、1回路入りだ。2回路入りは、それだけでLとRに対応できるので1つでステレオが構成できる。小さくて便利で価格も安いので各社から様々な種類が発売されている。



1回路入りは1つしか入っていないがそのかわり性能が優れたものができる。中にはかなりとんがったスペックのものまであり価格も高めのものが多い。



さらに詳しく種類を見て行くと、用途によって分類すると分かりやすいだろう。
映像信号を扱うビデオ用途、測定器など誤差が少なく精度の高い高精度版、電池などの低消費電力野低電圧版、大電力出力の取れるパワーオペアンプ、性能よりも低価格重視の低価格版、など。自動車にも軽自動車、高級車、バス、トラック、F1スポーツカーなどがあるようにオペアンプも用途によって最適なものを使い分ける。これ以外に内部回路野方式で分類することもあるが、それはおいおい見て行こう。

オーディオの場合はーディオ用と名打ったものが安心だ。それはローノイズ、低歪率、600Ω負荷ドライブ可能、増幅率が1倍でも発振しない安定動作などだ。これを満たすものはローコストなファミリーカー的なものから、高級車のようなものまであるが、次回はそれらオーディオ用途のオペアンプの種類についてもっと詳しく見ていこう。

参考ページ:「AUDIOTRAK製品ページ - DR.DAC2 DX」
 
米国テキサス州の半導体会社にて長年デジタルAVのLSIの企画開発やマーケティングを担当。はじめて使ったオペアンプはRC4558で、学生時代のエレキギターエフェクターは自作だった。アナログからデジタルまでの幅広い知識と経験を生かし、現在は各種オーディオコンサルティングやアンプの設計製作に専念。ハンドメイドオーディオ工房"オーロラサウンド"所属。趣味はギター演奏。