OPAMP道

暑い夏も終わりに近づいてきました、何やら少しさびしい気もします、夏にしかできないことを十分やってないからでしょうか。

さて、Audinst社から新製品"HUD-mini"が発売された。これは先にリリースされたHUD-mx1の ローコスト版ともいうべき製品だ。USB入力、光出力、ヘッドフォン出力、RCAライン出力という同じ機能だが価格はなんと22,800円から13,980円に下がった。両方販売していくということなのでエントリーモデルという位置づけだ。しかもHUD-miniは今までサポートしていなかった88.2kHzのサンプリング周波数に対応している。 他社の多くのUSB DACは台湾のテノール社のUSBチップを使用しているため、88.2kHzはノーサポートであるが、このHUD-miniは同じく台湾のVIAテクノロジー社の新しいチップを採用しているため、対応可能となっている。88.2kHzは米国のハイレゾ音源サイトのHD-TRACKS社に、昔のジャズやロックが多くアップされていて、これをダウンロードして聴く場合はそのままのサンプリング周波数で聴くことができるので便利である。
さて、このHUD-miniはなぜ安くできたのだろうか? それを見て行こう。
まず基板写真を見てほしい。なるほど多くの回路が集約され部品点数がかなり少なくなっている。 プリント基板面積はHUD-mx1の約2/3であるので基板コスト、組み立てコストなどが大幅にダウンサイジングできている。ケースの前面パネルもHUD-mx1では少しラウンドがかかったデザインであったが、HUD-miniでは平らになってここにもコストダウンが見られる。しかし、肝心なところはクオリティを下げていないようだ。DACはTIバーブラウンのPMC1791,24bit 192kHz 8倍オーバーサンプリング、オペアンプはナショナルセミコンダクタ(現TI社に買収された)の最新版LME49860であり、ヘッドフォンドライブはADI社の低電圧だが力持ちのAD8397だ。また要所要所の抵抗はチップ抵抗ではなく、リード線のついた米国DALE社のRN55シリーズだ!
これはかなりのこだわりを感じる。しかも肝心の電源回路は、USBバスパワーであるにもかかわらず +/-両電源を作っている。ここはHUD-mx1からの伝統で、Audinst社はここだけは妥協しないポリシーのようで大変好感が持てる。前述のプリント基板であるが、なんと金メッキパターンの多層基板である。これは30万-40万円クラスの製品にしか普通は使わないが、なんとおしみなく採用している。基板写真に金色に光るところがあるのをよく見てほしい。一部だけ金メッキパターンにはできない、黒い保護レジストで覆われて見えないが、全部金メッキパターンである。Audinst社の技術者や経営者に敬意を表したい。
このHUD-miniをじっくり見ているうちになんとなく愛着がわいてきた。デザインに無理がないのである。しっくりと目に入って手に持てる。 これはひょっとして黄金比?!
黄金比、それは縦と横の長さの比率が最も美しいとされる1対1.618の比率になっているものをさす。レオナルドダビンチのモナリザ、ギリシャのパルテノン神殿、葛飾北斎の富嶽三十六景など様々なところで見られる美の法則である。美人の目鼻口の位置やあごの輪郭もこの比率に当てはまるそうだ。

このHUD-miniもそれに違いないと思って測ってみた。アルミケースだけの縦が75mmに対して横が100mm、比率は1.33。ちょっと1.618ではない。しかしつまみや後ろのRCAジャックなど出っ張った部分も見た目の大きさに反映されるので、ぱっと見たときの印象でつまみとRCAジャックを半分入れて測ってみた。121mm。 縦との比率は何と1.618で黄金比となった。

こじつけではないのかとの御意見もあるかとは思うが、見た感じの印象が大事なのでお許しいただきたい。よいデザインは意識せずにこの比率に近づいているそうだ。

肝心の音のことを書こう。

やはり期待を裏切らない音だ。低域にも十分な力があって中域高域は滑らかで聴き疲れしない。 これで13,980円?と感心することしきりである。たくさんある低価格USBヘッドフォンアンプの中でも中身の作り、回路、基板どれをとっても最高ランクであると思う。また例によってOPAMPを変えられる。

では、オーロラサウンド社のBusPower-Proから給電してみよう。 これは私が所属するところの製品で恐縮であるがこういうUSBヘッドフォンアンプにはぴったりである。そのままPCと本機の間に入れるだけである。うーんやはりいい。自分のところの製品を褒めても読んでいる人はしらけるかもしれないが、このBusPower-Proとの相性は抜群である。ACアダプタがスイッチング式でなくノイズの少ないトランス式なので少し大きくて重たく、夏はちょっと暖かくなるが10,500円でこの効果があればオーディオアクセサリとして、不足はないだろう。女性ボーカルのエバキャシディを聴いたが、ハスキーな声にさらに乾いた色気を感じた。(試聴曲 : Songbird)
 
米国テキサス州の半導体会社にて長年デジタルAVのLSIの企画開発やマーケティングを担当。はじめて使ったオペアンプはRC4558で、学生時代のエレキギターエフェクターは自作だった。アナログからデジタルまでの幅広い知識と経験を生かし、現在は各種オーディオコンサルティングやアンプの設計製作に専念。ハンドメイドオーディオ工房"オーロラサウンド"所属。趣味はギター演奏。
DCサーボ回路に適したオペアンプを推奨してください。
 
OPAMP自体のDCオフセットが大きくては困りますのでそれの小さいものを選びます。
回答の前にDCサーボ回路について少し説明します。現代の半導体を使ったアンプは入力部分のトランジスタの特性の不揃いによって、オフセット電圧という微小な直流電圧が発生しますが、これが増幅されて数百ミリボルトから時には数ボルトと言う電圧になって出力に現れ、スピーカーやヘッドフォンの振動板にある一定の悪影響をあたえます。これを無くすためにコンデンサでカットする方法が一般的ですが、超低域も一緒にカットされますし,何よりコンデンサの音を嫌うという風潮もあって、そこでDCサーボ回路が登場します。これは出力のDC成分を入力にフィードバックしてそれをキャンセルするという回路で、温度による変動があってもその変動分を自動的にキャンセルされますので、いつでも出力に出るDCはゼロになります。DCカットのコンデンサを取ることができ、超低域も再生できます。
さて、このDCサーボ回路に適したOPAMPですが、オフセット電圧をキャンセルしますのでこのOPAMP自体のDCオフセットが大きくては困りますのでそれの小さいものを選びます。また温度ドリフトの小さいことも大事です。さらにカットオフ周波数を1ヘルツ以下の超低域に設定しますのでフィルター回路のコンデンサが大きくならないように抵抗値が1MΩくらいになります。そうしますとOPAMPの入力バイアス電流が1MΩに流れオフセット電圧に加えられてしまいますので、入力バイアス電流の小さいものが必要です。さらにノイズも小さくないとAMPが増幅してしまいます。 よって一般的にはFET入力のOPAMPが選ばれます。OPA2134やOPA827などです。しかし温度が上がるとFETの場合入力のリーク電流が増える場合がありますし増幅率の高いAMPの場合ノイズが問題となります。そこでバイポーラ入力の高精度OPAMPのOPA2277などが入力バイアス電流も少なくてお勧めです。